『膠と油』戦時下の芸術家たちのリアルな葛藤

膠と油 歴史
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暗い時代だからこそ、魂は燃え上がる。ぱらりの最新作『膠と油』が描く表現の渇望

表現したいという欲求は、時にあらゆる制約や恐怖を超えて、人の心を突き動かします。特に、自由が奪われ、個人の声が圧殺される時代において、何かを創り出すという行為は、それ自体が人間性の最後の砦であり、力強い抵抗となり得ます。

今回ご紹介する漫画『膠と油』(にかわとあぶら)は、まさにそんな時代の表現者たちの渇望と葛藤を描いた、心揺さぶる物語です。

作者は、画家の生と死、そして創作への執念を描いた前作『いつか死ぬなら絵を売ってから』で、「このマンガがすごい! 2024」オンナ編第18位に選出され、大きな注目を集めたぱらり先生 。芸術家の魂を描くことに定評のある作家が、次なるテーマに選んだのは、太平洋戦争末期の京都でした。  

空襲の影が忍び寄り、誰もが明日の命も知れぬ不安の中で生きていた時代 。そんな京都で出会った二人の若き画家が、表現することの意味を問い、自らの魂をキャンバスに叩きつけようとします 。  

この記事では、ぱらり先生の待望の最新作『膠と油』がなぜ今読むべき作品なのか、そのあらすじから深い魅力まで、徹底的に解説していきます。

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まずはここから!漫画『膠と油』の基本情報

物語の世界に飛び込む前に、まずは基本的な情報を押さえておきましょう。

項目内容
タイトル膠と油(にかわとあぶら)
作者ぱらり
出版社小学館
掲載誌/レーベルビッグコミックスペリオール / ビッグコミックス
ジャンル青年漫画、ヒューマンドラマ、歴史

本作が掲載されている小学館の「ビッグコミックス」レーベルは、手塚治虫、浦沢直樹といった巨匠たちの名作をはじめ、社会派ドラマや深い人間描写に定評のある作品を数多く世に送り出してきました 。『膠と油』がこのレーベルから刊行されるという事実は、本作が単なる歴史漫画ではなく、大人の読者がじっくりと向き合うべき、骨太で知的な物語であることを示唆しています。  

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戦争と芸術、京都を舞台にした二人の画家の物語

『膠と油』の舞台は、太平洋戦争が終焉を迎えようとしていた1944年から1945年の京都です 。日に日に戦況が悪化し、日本中が「お国のために」という一つの価値観に染め上げられていく時代。個人の感情や自由な表現は「非国民」のレッテルを貼られかねない、息苦しい空気が社会を覆っていました。  

この作品が踏み込むテーマは、非常に重く、そして現代に生きる私たちにとっても重要です。公式サイトには、こう記されています。

世界で唯一の被爆国、そしてアジアを侵略した加害国である我々が、戦後80年経ったいま、再び“あの戦争”を見つめる――  

被害者と加害者という二つの側面を持つ日本の戦争を、芸術家の視点から見つめ直す。この挑戦的なテーマ設定こそが、本作の核となっています。

当時の画家たちは、思想的な圧力だけでなく、物理的な困難にも直面していました。絵の具やキャンバスといった画材は統制品となり、自由に手に入れることすら難しかったのです 。国策に協力し、戦意高揚を目的とした「戦争画」を描くことを求められる一方で、自らの内なる表現欲求との間で引き裂かれる芸術家も少なくありませんでした 。  

そんな極限状況の中で、二人の主人公が「秘密の美術展」を企てる 。彼らの挑戦は、単なる若者の無謀な反抗ではありません。それは、時代に奪われた表現の自由と、人間としての尊厳を取り戻すための、命がけの闘いなのです。  

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禁じられたキャンバスへ――『膠と油』のあらすじ

物語は、二人の対照的な青年の出会いから始まります。

一人は、卯ノ原 実(うのはら みのる)。足が悪いことで徴兵を免れた彼は、戦地へ赴く同世代の若者たちへの負い目を抱えながら、その鬱屈した感情を絵筆に託す日々を送っていました 。  

もう一人は、辰巳 柾(たつみ まさき)。「謎にスケールのデカい」と称される、どこか掴みどころのない男です 。彼の存在は、卯ノ原の静かな日常に大きな波紋を広げます。常識外れの行動力と、時代を見据える鋭い慧眼を持つ辰巳は、卯ノ原の才能を見抜き、ある大胆な計画を持ちかけます。  

それは、当局の目を盗んで、自分たちの信じる「本物の芸術」だけを集めた「秘密の美術展」を開くこと 。  

自由に絵が描けない時代に、絵を描くことでしか生きられない二人。それぞれが心に傷を抱えながらも、互いの才能と情熱に引かれ合い、危険な企てに身を投じていきます。果たして彼らは、暗い時代の片隅で、表現の光を灯すことができるのでしょうか。

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なぜ今『膠と油』を読むべきなのか?心揺さぶる3つの魅力

本作には、読者を惹きつけてやまない、いくつもの魅力が詰まっています。ここでは、特に注目すべき3つのポイントをご紹介します。

リアルな時代考証:戦争下の京都で「描くこと」の息苦しさと意味

本作の魅力の一つは、その徹底した時代考証にあります。特に、舞台となる「戦時下の京都」の描写は秀逸です。

「京都は空襲を免れた」という話は有名ですが、史実では、作中でも言及されるように1945年に小規模ながら空襲の被害を受けています 。この歴史的事実を踏まえることで、物語は「京都だけが安全だった」という安易な神話に頼ることなく、常に死と隣り合わせの緊張感に包まれています。  

さらに、当時の京都の美術界の状況も巧みに物語に織り込まれています。戦前から戦時中にかけて、京都は東京と並ぶ前衛芸術(アヴァンギャルド)の一大拠点でした 。国家が推奨する勇ましい戦争画とは一線を画し、シュルレアリスム(超現実主義)や抽象画といった新しい表現を模索する画家たちが、この地で活動していたのです 。卯ノ原と辰巳が企てる「秘密の美術展」は、こうした歴史的背景を持つ京都だからこそ、より一層のリアリティと切実さをもって読者に迫ってきます。  

対照的な二人の主人公が織りなす魂のぶつかり合い

物語のエンジンとなるのは、卯ノ原 実と辰巳 柾という、あまりにも対照的な二人の主人公です。

内向的で、身体的な劣等感を芸術に昇華させようとする卯ノ原。彼の繊細な感性が生み出す絵は、時代の痛みを静かに映し出す鏡のような存在でしょう。 一方、大胆不敵で、謎めいた行動力を持つ辰巳。彼は、卯ノ原の才能を守り、その絵を世に問うためのプロデューサーであり、時代の閉塞感を打ち破ろうとする革命家のような役割を担います。

それぞれが抱える「傷」 を原動力に、互いの足りない部分を補い合いながら、一つの目的に向かって突き進む二人の関係性。それは単なる友情を超えた、魂の共鳴と呼ぶべきものです。彼らの熱いバディ関係から目が離せません。  

作者ぱらりの筆致:静かな熱量と確かな画力

そして何より、作者ぱらり先生の確かな筆致が、この重厚なテーマの物語に説得力を与えています。前作『いつか死ぬなら絵を売ってから』で証明されたように、芸術家の内面的な葛藤や創作の苦しみ、そしてその先にある喜びを、繊細かつ力強く描き出す手腕は本作でも健在です 。  

公式サイトの「熱筆」という言葉が示す通り 、静かながらもページから溢れ出してくるようなキャラクターたちの熱量が、読者の心を鷲掴みにします。美しい描線で綴られる戦時下の京都の風景と、そこに生きる人々の表情。そのコントラストが、物語の深みを一層増しているのです。  

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この一瞬を見逃すな!『膠と油』の注目ポイント

まだ連載が始まったばかりの作品ですが、今後の展開で特に注目したい「見どころ」を予想してみました。

卯ノ原と辰巳、運命の出会いの場面

全ての始まりとなる、二人の出会いのシーン。劣等感に苛まれる卯ノ原の前に、突如として現れる「スケールのデカい」男、辰巳。彼が卯ノ原の絵に何を見出し、卯ノ原が辰巳の言葉に何を託したのか。二人の運命が交差する瞬間は、物語屈指の重要な場面となるはずです。

時代に抗う「秘密の美術展」の企て

物語の中核をなす「秘密の美術展」の計画と実行のプロセスは、最大の見どころとなるでしょう。画材の調達一つとっても困難な時代 、特高警察(思想警察)の監視の目をかいくぐり、仲間を集め、場所を確保する。その一つ一つの過程が、手に汗握るサスペンスとして描かれることが期待されます。  

心に刻まれるであろう名言たち(予想)

この物語は、きっと私たちの心に突き刺さる数々の名言を生み出すはずです。

  • 「こんな時代だからこそ、美しいものを残さなければならない」といった、辰巳の芸術に対する信念を語る言葉。
  • 「俺にとって描くことは、生きている証そのものだ」というような、卯ノ原の静かながらも揺るぎない決意。
  • 「絵を描く自由くらい、誰にも奪わせない」という、時代への痛烈なカウンターとなるセリフ。

彼らが紡ぐ言葉の一つ一つに、注目してください。

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物語を紡ぐ二人の画家

卯ノ原 実(うのはら みのる):劣等感を抱えながらも絵筆を握る、内なる炎を秘めた青年

足の怪我により兵役を免れたことに、深いコンプレックスを抱く青年画家 。その鬱屈した感情を全てキャンバスにぶつける、繊細で情熱的な魂の持ち主です。  

辰巳 柾(たつみ まさき):謎に包まれた、常識外れのスケールで時代に挑む男

どこから来て、何を目指しているのか、多くの謎に包まれた人物 。圧倒的な行動力とカリスマ性で卯ノ原を導き、時代の常識に真っ向から戦いを挑みます。  

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もっと知りたい!『膠と油』気になるQ&A

Q1: この漫画に原作はありますか?

いいえ、本作はぱらり先生による完全オリジナルの漫画作品です。原作がないため、先の展開が全く読めない、スリリングな物語を楽しむことができます。

Q2: どんな人におすすめですか?

以下のような方に、特におすすめしたい作品です。

  • 骨太な歴史ドラマが好きな方:『昭和元禄落語心中』や『ゴールデンカムイ』のように、緻密な時代考証に基づいた人間ドラマに惹かれる方。
  • 芸術や創作をテーマにした物語が好きな方:『ブルーピリオド』や『アルテ』、そして作者自身の前作『いつか死ぬなら絵を売ってから』に心を動かされた方。
  • 考えさせられる青年漫画を読みたい方:戦争、社会、そして人間の尊厳といった、深く重いテーマに正面から向き合いたいと考えている読者の方。

Q3: 作者のぱらり先生はどんな人?過去作は?

ぱらり先生は、2022年に連載を開始した『いつか死ぬなら絵を売ってから』で大きな評価を得た漫画家です 。この作品もまた、無名の画家の人生と創作への執念を描いた物語であり、その卓越した描写力で多くの読者の心を掴みました。「このマンガがすごい! 2024」オンナ編にランクインしたことからも、今最も注目すべき作家の一人であると言えるでしょう 。芸術家の魂を描き続けるその姿勢は、本作『膠と油』にも深く息づいています。  

Q4: タイトルの「膠と油」にはどんな意味が込められているの?

このタイトルは、本作のテーマを象徴する非常に深い意味を持っています。 「膠(にかわ)」とは、動物の皮や骨から作られる接着剤で、伝統的な日本画で岩絵具を画面に定着させるために使われます。一方、「油(あぶら)」は、西洋絵画で使われる油絵具の主成分です。

つまり、「膠」は伝統的な**「日本画」を、「油」は近代的な「西洋画(油彩画)」**を象徴しています。戦前の日本の美術界は、まさにこの「膠(伝統・日本)」と「油(近代・西洋)」がせめぎ合う場所でした 。国家主義が高まる中で、伝統的な日本画が賛美される一方、自由な表現を求める前衛画家たちは西洋由来の新しい画風に傾倒していきました。  

このタイトルは、単に画材を指すだけでなく、「伝統と革新」「日本と西洋」「抑圧と自由」といった、物語の根底に流れる二項対立の全てを凝縮した、見事なメタファーなのです。

Q5: 作品の舞台、戦時下の京都の美術界ってどんな感じだったの?

前述の通り、戦時下の京都には非常に活発な前衛芸術のコミュニティが存在しました 。独立美術京都研究所や新日本洋画協会といった団体を拠点に、北脇昇や小牧源太郎といった画家たちが、政府の意向とは異なるシュルレアリスムなどの新しい表現を追求していました 。  

彼らはもちろん、主人公たちと同じように、思想的な弾圧や画材不足といった多大な困難に直面しました。それでもなお、自分たちの信じる芸術を諦めなかった実在の画家たちの苦闘の歴史が、この『膠と油』というフィクションに、揺るぎないリアリティと魂を与えています。この漫画を読むことは、知られざる日本の近代美術史の一端に触れる、刺激的な体験にもなるのです。

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さいごに

『膠と油』は、単なる歴史漫画ではありません。それは、どんなに暗い時代であっても、人間が「表現すること」を諦めない限り、希望の光は決して消えないという、普遍的なメッセージを私たちに伝えてくれる物語です。

高い評価を受けるぱらり先生が、緻密な時代考証と深い人間洞察をもって描く、二人の画家の魂の軌跡。情報が溢れ、時に息苦しさを感じる現代において、「あなた自身の声で何を語り、何を描きたいのか」と、静かに、しかし力強く問いかけてきます。

筆の一閃に込められた表現への渇望が、きっとあなたの心を打つはずです。ぜひ、その目で確かめてみてください。

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