夕陽が沈むグラウンドで、僕たちはもう一度出会ってしまった
高校生活最後の夏。それは、少年から大人へと変わる境界線で揺れ動く、特別で儚い季節です。もしもそんな夏の日に、ずっと憧れていた人と再会できたとしたら、あなたの胸はどれほど高鳴るでしょうか。
今回ご紹介する漫画『斜陽に恋う』の主人公・雛ノ井日葵(ひなのい ひまり)にとって、その再会は運命そのものでした。彼が再会したのは、かつて少年野球のチームでバッテリーを組むことを夢見た憧れの先輩、八谷蕃李(はちや ばんり)。
「先輩ともう一度野球がしたい」
「先輩の投げるボールを受け止めたい」
そんな純粋な憧れと熱情を抱いて再会した日葵でしたが、ページをめくるたびに突きつけられるのは、登場人物たちが抱える「言えない秘密」と「届かない想い」です。
再会の喜びも束の間、日葵は残酷な事実を知ることになります。蕃李が密かに、そして切実に想いを寄せている相手。それは日葵ではありませんでした。
彼が想う相手、それはあろうことか「自分の弟の彼氏」だったのです。
「憧れの先輩」から「弟の彼氏」へ向かう矢印。
「弟」と「弟の彼氏」の間にある幸福な矢印。
そして、その先輩に恋をしてしまった日葵の矢印。
この複雑に絡み合った男子たちの恋模様を見たとき、私たちは「どうしてこんなに苦しい設定なんだろう」と胸を締め付けられると同時に、その先にある結末を見届けずにはいられなくなります。
『佐原先生と土岐くん』などで知られる鳥谷コウ先生が描く、美しくも痛切な青春群像劇。2025年12月に待望のコミックス第1巻が発売されたばかりの本作について、その魅力やあらすじ、日葵くんの健気な恋心をたっぷりとご紹介します。
基本情報
まずは、本作の基本的な情報をチェックしましょう。
| 項目 | 内容 |
| 作品名 | 斜陽に恋う(しゃようにこう) |
| 著者 | 鳥谷コウ |
| 出版社 | 竹書房 |
| 掲載誌・レーベル | bamB!(バンビー)/ バンブーコミックス |
| ジャンル | 青春 / ヒューマンドラマ / BL(ボーイズラブ) |
| 連載媒体 | pixivコミック / 各種電子書籍ストア |
| キーワード | 高校野球 / 先輩後輩 / 片思い / 兄弟 / 禁断の恋 |
青春の光と影を描く、鳥谷コウ先生の最新作とは
『斜陽に恋う』は、透明感のある絵柄と繊細な心理描写で多くのファンを持つ鳥谷コウ先生による最新作です。本作は「高校野球」という青春の象徴的なモチーフを扱いながらも、メインテーマとして描かれるのは、男子たちの「叶わぬ恋」と「逃れられない関係性」です。
タイトルの「斜陽」には、「沈みゆく太陽」という意味があります。これは、美しく輝いているけれど、もうすぐ終わってしまう時間、あるいは手の届かない存在を暗示しているようです。
本作の大きな特徴は、主人公の日葵も、彼が憧れる蕃李も、それぞれが「報われない想い」を抱えている点です。
日葵は、かつて野球で繋がっていた蕃李にもう一度近づきたいと願いますが、蕃李の心は「弟の彼氏」という禁断の相手に囚われています。
「好き」という感情だけではどうにもならない現実や、家族というしがらみの中で、彼らがどのように自分の気持ちと向き合っていくのか。
単なるBL漫画の枠に収まらない、人間ドラマとしての深みが本作にはあります。
野球を諦めた先輩と、彼を追う後輩の切なすぎるあらすじ
物語の主人公は、高校3年生の男子・雛ノ井日葵(ひなのい ひまり)。
彼には、心の中にずっと忘れられないヒーローがいました。それは、かつて少年野球チームで一緒だった先輩、八谷蕃李(はちや ばんり)です。
「もう一度、あの人と同じグラウンドに立ちたい」
「彼とバッテリーを組みたい」
日葵にとって蕃李は、憧れの投手であり、特別な存在でした。しかし、時は流れ、二人の道は一度分かれてしまいます。
そして迎えた高校最後の夏、日葵は大学1年生になった蕃李と偶然の再会を果たします。
目の前に現れた彼は、昔と変わらず、夕陽のように美しい瞳をしていました。日葵の胸は高鳴り、止まっていた時間が動き出します。
しかし、現実は日葵に冷酷な事実を突きつけます。
蕃李はもう野球をしていませんでした。そして何より、彼には心に決めた「好きな人」がいたのです。
その相手は、蕃李の実の弟の恋人(彼氏)。
「野球を諦めた先輩」である蕃李。
「彼とのバッテリーを夢見る後輩」である日葵。
そして、「弟の彼氏」に許されぬ恋をする蕃李。
日葵は、憧れの先輩が抱える深い孤独と、出口のない片思いを知ってしまいます。それでも、彼のことを「好き」だと思う気持ちは止められません。
友情、憧れ、そして恋。それぞれの感情がグラウンドの土埃と共に舞い上がる、切ない青春ストーリーです。
届かないからこそ美しい、本作の魅力と特徴
ここからは、『斜陽に恋う』をより深く楽しむための見どころについて、詳しくご紹介します。
複雑に絡み合う「一方通行の矢印」
本作最大の魅力は、なんといってもその複雑で切ない人間関係図です。
日葵から蕃李へ向かう矢印は、純粋で真っ直ぐな憧れと恋心です。しかし、蕃李から伸びる矢印は、決して結ばれることのない「弟の彼氏」へと向かっています。
- 日葵 → 蕃李(憧れ・恋)
- 蕃李 → 弟の彼氏(禁断の恋・執着)
- 弟 ⇔ 弟の彼氏(円満なカップル)
この「全員が誰かを想っているのに、誰もが少しずつ寂しい」状況が、物語に深い陰影を与えています。読者は日葵に感情移入して「報われてほしい!」と願う一方で、蕃李の抱える地獄のような苦しみにも共感し、胸が締め付けられることでしょう。
「弟の彼氏」という絶対的なタブー
蕃李が想いを寄せる相手が「弟の彼氏」であるという設定は、本作のスパイスとして非常に強烈です。
単に「好きな人に恋人がいた」というだけでなく、その恋人が「自分の家族のパートナー」であり、しかも「男性」であるという多重の障壁があります。
家族である以上、弟とも、その彼氏とも、顔を合わせる機会は避けられません。弟の幸せを願う兄としての顔と、その恋人を求めてしまう男としての顔。
この絶対的なタブーの中で、蕃李が見せる危うい表情や、理性を保とうと必死になる姿は、背徳的でありながらも哀しいほどに魅力的です。
「野球」が繋ぐ男たちの絆とメタファー
物語の背景にある「野球」という要素も重要です。
日葵と蕃李を繋ぐのは、かつて白球を追いかけた記憶だけです。日葵にとって「バッテリーを組む」ことは、蕃李と心を通わせるための唯一の手段であり、愛のメタファーでもあります。
「ボールを受け止める」ことは「想いを受け止める」こと。
キャッチャー(捕手)である日葵は、ピッチャー(投手)である蕃李のすべてを受け止めたいと願っています。しかし、今の蕃李はボールを投げてくれません。
スポーツドラマとしての熱さと、恋愛ドラマとしての切なさが融合し、読者の涙腺を刺激します。
鳥谷コウ先生が描く、透明感あふれる心情描写
著者の鳥谷コウ先生は、登場人物の揺れ動く感情を表情一つで描く天才です。
タイトルにある「斜陽」のように、作中の光の表現は非常に叙情的です。逆光の中で見せる蕃李の寂しげな微笑みや、日葵の潤んだ瞳。
セリフで多くを語るのではなく、ふとした瞬間の視線や沈黙で、彼らの抱える「言えない想い」を表現する技術は圧巻です。
物語を彩る主要キャラクターたち
雛ノ井 日葵:まっすぐに恋を追う、ひたむきな元野球少年
「もう一度、先輩の球を受けたいんです」
本作の主人公で、高校3年生の男子です。
かつて少年野球チームで蕃李と出会い、彼に強い憧れを抱き続けてきました。素直で感情豊かな性格で、再会した蕃李に対して子犬のように懐こうとします。
しかし、蕃李の視線が自分ではない誰かに向いていることに気づき、その無邪気な憧れは次第にヒリヒリとした恋心へと変わっていきます。傷つきながらも真実に向き合おうとする彼の姿は、応援せずにはいられません。
八谷 蕃李:夕陽のような瞳を持つ、美しくも哀しい先輩
「叶わないと分かっていても、目が離せないんだ」
大学1年生。日葵が少年野球時代から憧れている先輩です。
かつては投手として活躍していましたが、現在は野球を辞めています。夕陽を思わせる美しい瞳を持ち、どこかアンニュイな雰囲気を漂わせています。
弟の彼氏に密かな恋心を抱いており、その罪悪感と欲望の狭間で苦しんでいます。日葵の純粋な好意をどう受け止めるのか、彼の心の変化が物語の鍵を握ります。
弟と、その彼氏:物語の核心にいる二人
「兄貴も応援してくれてるよな?」
蕃李の実の弟と、その恋人である男性。
この二人は、蕃李にとって「守るべき家族」と「手に入らない愛」の象徴です。
弟は兄を慕っていますが、兄の秘めた想いには気づいていません。そして「弟の彼氏」である男性は、蕃李の気持ちに気づいているのかいないのか、思わせぶりな態度を取ることも…? 彼らの存在が、日葵と蕃李の関係をより複雑にしていきます。
『斜陽に恋う』がもっと分かるQ&A
Q1: 原作小説などはありますか?
いいえ、本作は鳥谷コウ先生によるオリジナル漫画作品です。
小説やアニメのコミカライズではないため、先の展開を知っている人は誰もいません。最新話が更新されるたびに「この先どうなるの!?」と読者全員でハラハラできるのが、オリジナル作品の醍醐味です。
Q2: どんな人におすすめの漫画ですか?
- 切ない片思いBLが大好きな方:叶わぬ恋に身を焦がす男たちの心理描写が秀逸です。
- 「佐原先生と土岐くん」のファンの方:鳥谷先生の描く、ピュアで不器用なキャラクターたちの魅力が詰まっています。
- 野球やスポーツ要素のある青春群像劇が好きな方:バッテリーという関係性に萌える方にも強くおすすめします。
- ハッピーエンドだけじゃない、深みのある物語が読みたい方:人間の弱さや醜さも含めて愛おしく描かれています。
Q3: 作者の鳥谷コウ先生について教えてください。
鳥谷コウ(とりや こう)先生は、繊細な心理描写と魅力的なキャラクター造形で人気の漫画家です。
代表作に、ドラマ化もされた人気BL**『佐原先生と土岐くん』や、青春の揺らぎを描いた『浅春観測』**シリーズなどがあります。
本作でも、これまでの作品に通じる「もどかしい距離感」や「青春の輝き」が、より大人びたタッチで描かれています。
さいごに
ここまで『斜陽に恋う』の魅力をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
「憧れの先輩が好き」。そんな日葵のシンプルな恋心は、複雑な人間関係の中で揉まれ、形を変えていきます。
日葵のまっすぐな情熱は、蕃李の凍り付いた心を溶かすことができるのか。
そして、蕃李の禁断の想いは、どこへ行き着くのか。
今年の冬は、こたつに入って、日葵くんと一緒にヒリヒリと胸が痛くなるような恋の行方を見守りませんか?

