毎日を懸命に生きる中で、ふと心に空いた穴を感じたり、言葉にならない寂しさを覚えたりすることはありませんか。きらびやかな学生時代の恋愛とは違う、静かで、でも確かな温もりを求める、そんな大人の心にそっと寄り添ってくれる物語があります。
それが、今回ご紹介する漫画『たぶんここから始まる恋』です。
作者は、ドラマ化もされた大人気作『こっち向いてよ向井くん』で知られる、ねむようこ先生 。先生が新たに紡ぐのは、塾講師の青年と生徒の母親という、少し特別な関係性の二人による「不慣れな恋」の物語です 。
この記事では、傷ついた過去を抱える大人たちが、どのようにして心の距離を縮めていくのか、その繊細で心温まる物語の魅力を、ネタバレなしで徹底的にご紹介します。読み終わる頃には、きっとあなたもこの物語の始まりを見届けたくなるはずです。
まずはここから!「たぶんここから始まる恋」の基本情報
物語の世界に飛び込む前に、まずは基本的な情報をチェックしておきましょう。一目でわかるように表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
| タイトル | たぶんここから始まる恋 |
| 作者 | ねむようこ |
| 出版社 | シュークリーム |
| 掲載誌/レーベル | OUR FEEL |
| ジャンル | 女性マンガ, 恋愛, 人間ドラマ |
この基本情報からも、大人の女性向けの繊細な人間ドラマが期待できることがわかりますね 。
これは、欠けた心が出会う、始まりの物語
作品概要
本作は、単なる恋愛物語ではありません。それぞれが心に“喪失感”を抱え、どこか欠けた部分を持った大人同士が、偶然出会い、惹かれ合っていく人間ドラマです 。父親が蒸発した過去を持つ青年と、人知れず涙を流すシングルマザー。二つの欠けた心が重なり合う時、臆病で、不器用で、だけれども温かい恋が、静かに動き出します。
あらすじ
物語の主人公は、塾講師として働く27歳の三塩遼介(みしお りょうすけ)。彼には「不倫する奴マジ理解不能」という確固たる信念がありました 。
ある夜、遼介は居酒屋で一人、消え入りそうに涙をこぼす女性を見かけ、思わず声をかけます。その出来事は、彼にとってほんの些細な一夜の出来事のはずでした。
しかし後日、遼介は職場の塾で彼女と再会します。彼女の正体は、担当する生徒の母親である直江奈々美(なおえ ななみ)、35歳だったのです 。保護者と個人的な関係を持つことなど「言語道断」と考える遼介。彼はプロとして一線を引こうと固く決意します。
けれど、塾では娘のために気丈に振る舞う奈々美の姿に、あの夜に見せた寂しげな涙の残像が重なり、どうしても彼女のことが頭から離れません 。そんな中、一匹の拾われた仔猫が、二人の間の壁を少しずつ溶かすきっかけとなり… 。
なぜこんなに惹きつけられる?本作ならではの3つの魅力
多くの読者がこの物語に引き込まれるのには、明確な理由があります。ここでは、本作が持つ独特の魅力を3つのポイントに絞って解説します。
リアルな感情を描き出す「ねむようこ」先生の世界観
本作の最大の魅力は、何と言っても作者であるねむようこ先生が描く世界観そのものにあります。『こっち向いてよ向井くん』をはじめ、先生の作品は、現代を生きる人々のリアルな悩みや心の機微を巧みに描き出すことで、多くの読者から共感を得てきました 。
読者レビューでも「作者さんの描く人物がいつも魅力的」「話のテンポも空気感も独特」といった声が寄せられており、その筆力は本作でも存分に発揮されています 。「ポップなのにダーク。カラフルでいてリリカル」と評されるその作風は、一見すると穏やかな日常の中に潜む、登場人物たちの複雑な感情や過去の痛みを繊細に描き出します 。仕事、恋愛、そして人生の岐路に立つ大人たちの姿は、私たち自身の物語として心に深く響くのです 。
「塾講師と保護者」という禁断ではない、絶妙な距離感
「塾講師と保護者の恋」と聞くと、どこかスキャンダラスな響きを感じるかもしれません。しかし、この物語は安易な「禁断の恋」には流れません。奈々美はシングルマザーであり、遼介も独身。二人の関係を阻むのは、社会的なタブーや誰かを裏切る罪悪感ではなく、遼介自身の「保護者とは個人的な関係を持つべきではない」という強い職業倫理と、彼の過去に根差した個人的な信念です 。
この設定が、物語に深みを与えています。障害が外部にあるのではなく、主人公の内面にあるため、派手な事件が起こるわけではありません。その代わり、遼介の心の葛藤や、奈々美への想いと自身の信念との間で揺れ動く様が、丁寧に、そしてリアルに描かれます。この「禁断ではない、でも越えがたい」という絶妙な距離感が、読者をじれったくも目が離せない気持ちにさせるのです。
傷を抱えた大人たちの、一歩ずつの歩み寄り
物語の核となるのは、傷ついた者同士の魂の共鳴と癒やしのプロセスです。遼介は父親に捨てられた過去からくる喪失感を抱え、奈々美は理由は明かされないものの、一人きりで涙を流すほどの深い悲しみを抱えています 。遼介の「不倫は絶対に許せない」という頑なな態度は、単なる正義感だけでなく、過去の傷から自分を守るための鎧(よろい)でもあります。
そんな二人が、急に恋に落ちるわけではありません。物語は、彼らがゆっくりと、一歩ずつ距離を縮めていく様子を大切に描きます。その重要な役割を果たすのが、一匹の「仔猫」です 。恋愛に不慣れな二人にとって、か弱い存在を一緒に世話するという行為は、直接的な好意を伝えるよりもずっと自然で、安全なコミュニケーションの手段となります。この仔猫の存在が、警戒心の強い二人の心を優しく解きほぐし、穏やかな関係性を育むための温かい触媒となっているのです。
心に残る名シーンの数々
物語の序盤には、読者の心を掴んで離さない印象的なシーンがいくつも登場します。
出会い:居酒屋の夜、彼女の涙の理由
物語の始まりは、非常に静かで、しかし強烈な印象を残します。居酒屋の片隅で、声を殺して泣く奈々美の姿。このシーンは、彼女が普段見せているであろう「しっかり者の母親」という仮面の下に、どれほどの悲しみを隠しているのかを雄弁に物語っており、読者に強い好奇心と共感を抱かせます 。なぜ彼女は泣いていたのか?その謎が、物語全体を貫く一本の芯となります。
再会:気まずさと好奇心が交差する保護者面談
居酒屋での出会いの後、塾での再会シーンは、本作の緊張感を一気に高めます。互いに相手を認識しながらも、あくまで「塾講師」と「保護者」として振る舞わなければならない気まずさ。遼介のプロ意識と、奈々美の秘密を知ってしまったことへの戸惑いが交錯する空気感は、読んでいるこちらまで息を呑むほどです 。この気まずい再会こそが、二人の特別な関係が本格的に始まる合図なのです。
名言:「不倫する奴マジ理解不能」―主人公の信念が揺らぐ瞬間
このセリフは、遼介というキャラクターを象徴する、物語のキャッチフレーズです 。しかし、本当の名場面はこの言葉そのものではなく、この信念を掲げる遼介が、奈々美と関わる中で少しずつその信念を揺らがせていく全ての瞬間です。彼女の強さや脆さに触れるたびに、彼の心の中で「ルール」と「感情」がせめぎ合います。その内面の葛藤こそが、本作の最大の見どころであり、彼の人間的な成長を描く上で欠かせない要素となっています。
物語を彩る主要キャラクター
この魅力的な物語を牽引するのは、人間味あふれる二人の主人公です。
三塩 遼介(みしお りょうすけ):不器用で寂しがり屋な正義感の強い塾講師
27歳の塾講師。真面目で正義感が強く、特に不誠実な恋愛に対しては強い嫌悪感を示します。しかし、その頑なな態度の裏には、父親が蒸発したという過去の傷と、人知れず抱える寂しさが隠されています 。ルールで自分を縛ることで、傷つくことから心を守ってきた不器用な青年です。
直江 奈々美(なおえ ななみ):強さの裏に脆さを隠す、生徒の母親
35歳のシングルマザー。塾では娘を想う頼もしい保護者として振る舞っていますが、その裏では一人で涙を流すほどの深い悲しみを抱えています 。多くの女性が社会で求められる役割と、内に秘めた本当の感情との間で揺れ動く姿を体現したような、複雑で魅力的なキャラクターです。
もっと知りたい!「たぶんここから始まる恋」Q&A
ここまで読んで、さらに作品について知りたくなった方のために、よくある質問をQ&A形式でまとめました。
Q1: この漫画に原作はありますか?
いいえ、本作はねむようこ先生による完全オリジナル作品です 。小説などの原作は存在しないため、誰もが先入観なく、まっさらな気持ちで物語の世界を楽しむことができます。
Q2: どんな人におすすめの漫画ですか?
大人の読者、特にリアルで深みのある恋愛模様や人間ドラマが好きな方に強くおすすめします。また、ねむようこ先生のファンはもちろん、「癒やされる」「ほのぼの」「エモい」といったキーワードに惹かれる方にもぴったりです 。派手な展開よりも、登場人物の心情をじっくりと追いかけたい、心に沁みる成熟したラブストーリーを読みたい、という方にこそ手にとっていただきたい作品です。
Q3: 作者のねむようこ先生について、他の作品も教えて下さい。
ねむようこ先生は、現代人の恋愛や仕事におけるリアルな感情を描くことで高い評価を得ている漫画家です。代表作には、恋愛迷子の男性を描き大ヒットした**『こっち向いてよ向井くん』、パチンコ専門のデザイン事務所で働く女性の奮闘を描いたお仕事漫画の傑作『午前3時の無法地帯』、不思議な町の漢方薬局を舞台にした『三代目薬屋久兵衛』**などがあります 。どの作品も、共感性の高いキャラクターと心に残るストーリーが魅力です。
Q4: いわゆる「禁断の恋」や不倫の物語なのでしょうか?
この質問は、本作のテーマを理解する上で非常に重要です。結論から言うと、不倫の物語ではありません。前述の通り、奈々美は独身であり、二人の関係は誰かを裏切るものではありません。物語の障害となるのは、あくまで「塾講師と保護者」という社会的立場からくる倫理観や、遼介個人の過去のトラウマです。この点が、本作を単なるメロドラマとは一線を画す、誠実で深みのある人間ドラマにしています。
Q5: 物語における「仔猫」はどのような役割を果たしますか?
あらすじで触れられている「仔猫」は、単なる可愛いマスコットではありません 。恋愛に臆病で、どう距離を縮めたらいいかわからない不器用な二人にとって、この仔猫はコミュニケーションの架け橋となる重要な存在です。か弱い命を「一緒に助ける」という共通の目的を持つことで、二人は自然な形で協力し、お互いの優しさに触れることができます。仔猫は、二人の関係をゆっくりと、そして確実に前進させるための、優しく温かい触媒の役割を果たしているのです。
さいごに:ゆっくりと愛を育む二人を見守りたくなる物語
『たぶんここから始まる恋』は、刺激的な展開やドラマチックな恋愛を求める人には、少し物足りなく感じるかもしれません。しかし、この物語には、それらとは違う、静かで、深く、そして確かな感動があります。
それは、傷ついた心がゆっくりと癒やされ、臆病だった大人がもう一度誰かを信じようと一歩を踏み出す勇気の物語です。遼介と奈々美が、ぎこちなく、探り探り、それでもお互いを思いやりながら関係を育んでいく姿は、きっとあなたの心にも温かい光を灯してくれるでしょう。
ぜひ、この不器用で優しい二人の恋が「始まる」その瞬間を、あなた自身の目で見届けてみてください。物語の最初のページをめくれば、きっとあなたも彼らの行く末を、固唾をのんで見守りたくなるはずです。


