神の「迷い」に触れる。手塚治虫、封印された創造の断片『手塚治虫 ミッシング・ピーシズ』

手塚治虫 ミッシング・ピーシズ 画集・イラスト集
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「漫画の神様」と称される手塚治虫。私たちは『鉄腕アトム』『火の鳥』『ブラック・ジャック』といった完成された傑作を通して、彼の揺るぎない才能に触れてきました。

ですが、もしその「神様」にも、私たちが知り得なかった「迷い」や「試行錯誤」があったとしたら? 完成された作品の裏側で、発表されることのなかった原稿、単行本化の際に大胆に削られたシーン、あるいはアイデアのままスケッチブックに眠る「ネーム」が存在したとしたら?

この記事でご紹介する『手塚治虫 ミッシング・ピーシズ』は、まさにその封印された「欠けたピース(ミッシング・ピーシズ)」を集めた一冊です。

しかし、これは単なる未発表作品集ではありません。これは、手塚治虫という天才が、何を考え、何を捨て、何を磨き上げたのか、その「思考と筆致」そのものに触れることができる、禁断の書とも言える資料集です。

この記事を読み終える頃、あなたはきっと「新たな手塚治虫像が立ち上がる」ような、スリリングな「知的興奮」の入り口に立っているはずです。

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ひと目でわかる「手塚治虫 ミッシング・ピーシズ」

まずは本書の基本的な情報をご紹介します。

項目内容
書名手塚治虫 ミッシング・ピーシズ
著者手塚治虫
監修・解題濱田髙志
仕様B5判 / 464ページ
定価7,700円(本体7,000円+税10%)
発行立東舎
発売リットーミュージック
発売日2025年11月14日

この「B5判 / 464ページ」という仕様に注目してください。一般的な漫画単行本よりも大きなサイズで、分厚い画集のようなボリューム感です。この物理的な「重さ」こそが、本書が単なる読み物ではなく、「原稿のタッチを生かした形」で手塚治虫の筆致を鑑賞するための、専門的な資料集であることを物語っています。

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「ミッシング・ピーシズ」とは、手塚治虫の「思考」そのものである

本書のタイトルを見て、過去に発売された『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』や『火の鳥 ミッシング・ピーシズ』を思い浮かべた方も多いかもしれません。

しかし、本書はそれらのシリーズとは決定的に異なります。

過去のシリーズが特定の「作品」に焦点を当てていたのに対し、本書はシリーズで初めて「手塚治虫」という「作家名」そのものを冠しています。これは、本書が手塚治虫という一人のクリエイターの「思考と筆致」そのものを解き明かす、集大成的な企画であることを意味します。

その内容は、単に未発表の物語が読めるというものではありません。手塚治虫が作品を生み出す過程で描いた「ネーム」(漫画の設計図)、「初期稿」(初期のアイデア)、そして私たちが知る単行本版とは異なる、雑誌掲載時の「オリジナル版」原稿などが、464ページという大ボリュームでふんだんに収録されています。

これらを読み解くことで、読者は手塚治虫の「思考」を追体験できます。彼が何を考え、どのコマを削り、なぜセリフを変えたのか。その天才的な「編集術」を、私たちは自分の目で確かめることができるのです。

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収録作品から見る、世に出なかった手塚ワールド

本書は特定の一貫した物語(あらすじ)を持つ本ではありません。その代わり、本書で私たちが「何を発見できるのか」、その収録内容の一部をご紹介します。

まず圧巻なのが、単行本初収録となる『マンションOBA』の鮮やかなカラー原稿です。当時の印刷技術では再現が難しかったであろう、手塚治虫の生々しい筆のタッチと色彩が、現代の技術で蘇ります。

次に注目すべきは、単行本化の際に大きく改変された「耳鴉」や「でんでこでん」です。本書では、私たちがよく知る「単行本版」と、雑誌掲載時の「初出版(オリジナル)」が並べて掲載(併載)されています。なぜ表現が変えられたのか、その謎を読者自身が解き明かすことができます。

さらに、近年新しく発見され話題となった、未発表作品の「ネーム(設計図)」が3点も収録されています。例えば『ひょうたん駒子』は、南極から来た少女・駒子が東京で珍道中を繰り広げるユーモア漫画のネームです。もしこれが完成していたら…と、想像が膨らみます。

そして極め付けは、『アラバスター』『きりひと讃歌』『MW』『陽だまりの樹』、そして『火の鳥(太陽編)』といった、手塚治虫のキャリアを代表する傑作群の「初期稿」や「未使用原稿」です。ファンであればあるほど、あの名シーンの「もう一つの可能性」に息をのむことになるでしょう。

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なぜファンは「ミッシング・ピーシズ」に熱狂するのか?

本書の価格は7,700円(税込)と、決して安価ではありません。しかし、それでも熱心なファンが本書に「知的興奮」を覚えるのには、明確な理由があります。その魅力の核心を解き明かします。

巨匠の「筆致」と「編集術」を追体験

本書は「原稿のタッチを生かした形」での掲載に強くこだわっています。これは、単に綺麗な絵を見るためではありません。手塚治虫がどのようなスピードでペンを走らせ、どこにインクを溜め、どのような線でキャラクターに命を吹き込んだのか、その「筆致」を感じるためです。

さらに、前述した「耳鴉」のような初出版と単行本版の比較は、読者に能動的な読書体験を促します。なぜこのコマは削られたのか? なぜこのセリフは変更されたのか? そこに手塚治虫の「編集術」、すなわち読者に物語をどう届けるかという「思考」が隠されています。完成品を読むだけでは決して得られない、スリリングな分析と考察が、ここにはあります。

単行本初収録!幻のカラー原稿『マンションOBA』

本書の大きな目玉の一つが、これまでファンの間でも待望されていた『マンションOBA』(「ライオンブックス」シリーズ)のカラー原稿の収録です。

単行本化の際に見送られてきた、その鮮やかな色彩と生々しい筆遣いを、B5判という大きな紙面で堪能できるのです。この失われていたピースが埋まることで、手塚治虫が描いた作品群の全体像が、また一つ鮮明になります。

初出と単行本版の比較で分かる、手塚治虫の「試行錯誤」

私たちは普段、当たり前のように「単行本」で手塚作品に触れています。しかし、「耳鴉」や「でんでこでん」といった作品は、雑誌に掲載された「初出版」と、後に単行本に収録される際、大きく内容が改変されました。

本書では、その両方が「併載」されています。読者への配慮か、時代性の変化か、それとも芸術的な判断か。手塚治虫がなぜ表現を変えたのか、その「試行錯誤」の跡を具体的に辿ることができます。これは、ミステリー小説の謎を解くような「知的興奮」を読者にもたらしてくれます。

新発見ネームがもたらす「作品が生まれる瞬間」

本書には、近年発見されたばかりの貴重な未発表ネームが3点も収録されています。

「ネーム」とは、漫画の設計図であり、作者の「思考」が最も生々しく、フィルタリングされずに表出する場所です。そこには、完成原稿になる前の、荒々しいアイデアの奔流が記録されています。

私たちは、手塚治虫の「脳内」を覗き見るかのように、作品がまさに生まれ落ちる「ゼロ地点」に立ち会うことができます。これこそ、本書が「思考と筆致」の書と呼ばれる最大の理由です。

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珠玉の断片に登場するキャラクターたち

本書は特定の主人公がいる物語ではありません。手塚作品のスター・システムに連なるものの、これまで光が当たらなかった「幻のキャラクター」たち。その一部をご紹介します。

ひょうたん駒子:南極から来たおてんば娘

未発表のユーモア漫画『ひょうたん駒子』の主人公。南極に住むオングル族の娘で、東京で大騒動を巻き起こすというプロットがネーム(設計図)の形で収録されています。もしこの作品が完成し、連載されていたら、『リボンの騎士』のサファイアや『メルモ』のメルモに並ぶ人気キャラクターになっていたかもしれません。そんな想像をかき立てられる、魅力的な存在です。

『マンションOBA』の登場人物たち:鮮やかな色彩で蘇るスターシステム

本書に鮮やかなカラー原稿で収録される『マンションOBA』。ここには、手塚治虫作品でおなじみの「スター・システム」のキャラクターたちが、いつもとは違う「単行本未収録」のシチュエーションで登場します。私たちが知るアトムやブラック・ジャックといった主役級スターではありませんが、手塚ワールドの住人たちが、生き生きとしたカラーで躍動する姿は、ファンにとって必見です。

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制作の舞台裏へようこそ!「ミッシング・ピーシズ」徹底解明 Q&A

本書は専門的な内容も含むため、読者の皆様が抱くであろう疑問に、Q&A形式でお答えします。

Q1: この漫画に原作はありますか?

A: 原作(著者)は手塚治虫氏本人です。ですが、本書はいわゆる「漫画の物語」が一貫して描かれている作品ではありません。

これは、手塚治虫氏が遺した「未発表の原稿」や「ネーム(設計図)」、「初期稿」といった膨大な「資料」を集め、それに専門家が解説(解題)を加えた「作品資料集」です。漫画のストーリーを読むというより、「手塚治虫の頭の中を覗き見る」という特別な体験ができる本、とお考えください。

Q2: どんな人におすすめですか?

A: まず、すべての手塚治虫ファンにとって必携の書であることは間違いありません。

特に、「手塚治虫がどのように物語を考えていたのか」「なぜ彼は天才と呼ばれるのか」という、創作の「プロセス」や「技術」に深く興味がある方には、強くおすすめします。

また、ご自身で絵や物語を創作される方、編集者や漫画家を志す方、あるいはあらゆるクリエイティブな「編集術」に触れたい方にとって、これ以上ない「生きた教科書」となるでしょう。

Q3: 著者と監修者について教えてください。

A: 著者は、言わずと知れた「漫画の神様」手塚治虫氏(1928-1989)です。生涯で膨大な作品を生み出し、医学博士でもありました。

監修・解題を担当しているのは、濱田髙志氏です。濱田氏は音楽ライターとしてのキャリアで知られていますが、同時に手塚治虫研究の第一人者でもあります。手塚治虫オフィシャルサイトのインタビューや、『手塚治虫キャラクター名鑑』の編者を務めるなど、手塚作品の発掘と復刻に長年尽力されてきた専門家です。濱田氏による詳細な解説(解題)が、本書の資料的価値をさらに確かなものにしています。

Q4: なぜ今、この「未発表作品」が公開されたのですか?

A: 非常に良いご質問です。手塚治虫氏が亡くなって久しいですが、氏に関する資料研究は今も活発に進んでいます。実際、近年になって「手塚先生自筆の自作評ノート」が発掘されるなど、新しい発見が続いています。

本書は、そうした最新の研究成果と、これまで「ミッシング・ピーシズ」シリーズで培われてきた編集ノウハウ、そして濱田髙志氏のような専門家の知見が結集したからこそ、まさに「今だからこそ」世に出すことができた、手塚治虫研究の最前線を示す一冊と言えます。

Q5: 「ミッシング・ピーシズ」シリーズの他作品とは何が違いますか?

A: 最大の違いは、その「スコープ(範囲)」にあります。

これまでのシリーズ、例えば『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』や『リボンの騎士 ミッシング・ピーシズ』は、特定の「作品」に焦点を当て、その作品の「欠けた部分」を探すものでした。

しかし本書は、シリーズで初めて「手塚治虫」という「作家本人」をテーマにしています。そのため、キャリア初期の作品から、『MW』や『火の鳥(太陽編)』といった晩年の大作まで、彼の漫画家人生全体を横断して、その「思考と筆致」そのものを解き明かそうとしています。これが、本書が「シリーズ最新作」でありながら「集大成」と呼ばれる理由です。

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さいごに:手塚治虫の「本当の姿」に出会う旅へ

この記事を読んで、本書『手塚治虫 ミッシング・ピーシズ』が、単なる「昔の未発表漫画」の寄せ集めではないことをお分かりいただけたかと思います。

本書は、7,700円という価格に見合う、あるいはそれ以上の「価値」を持つ「体験」そのものです。

それは、「漫画の神様」が一人の人間として悩み、修正し、時に苦しみながら捨てた「創造の断片」に触れ、彼の「編集術」や「思考」の軌跡を追体験するという、スリリングな「知的興奮」に満ちた体験です。

私たちは、完成された作品からでは決して知ることのできない、手塚治虫の「本当の姿」に出会うことができます。

この貴重な一冊と共に、巨匠の創造の現場へ立ち会う、時空を超えた旅に出かけてみませんか。

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