あなたの知らない「異世界無双」がここに
「また異世界転生ものか…」 数多くの作品が世に出る中で、そう感じている漫画好きの方も少なくないかもしれません。最強の剣技、古代の魔法、神々から与えられたチートスキル。物語の定石に、少しだけ食傷気味になっていませんか?
では、もし、主人公の最強の武器が伝説の聖剣ではなく「完璧に準備された名刺」だったら?もし、世界を揺るがす究極魔法がメテオではなく「相手を唸らせるプレゼン資料」だったら?
今回ご紹介する漫画『異世界リーマン』は、まさにそんな常識破りの物語です。主人公は、戦闘力ゼロのどこにでもいるサラリーマン「ハヤシ」。彼が現代日本の過酷なビジネス社会で培った「営業スキル」だけを武器に、剣と魔法のファンタジー世界を攻略していく、新感覚の異世界コメディです 。
この記事を最後まで読めば、なぜこの漫画が日々の仕事に疲れた多くの大人たちの心に深く刺さるのか、その魅力のすべてが明らかになるでしょう。
『異世界リーマン』の基本情報
まずは、本作の基本情報を整理しておきましょう。原作は小説投稿サイト「小説家になろう」で人気を博したWeb小説で、コミカライズにあたり才能あふれるクリエイター陣が集結しています 。
| 項目 | 内容 |
| 作品名 | 異世界リーマン |
| 原作 | 岡崎マサムネ |
| キャラクター原案 | てつぶた |
| 漫画 | 北欧ゆう |
| 出版社 | 小学館 |
| 掲載レーベル | マンガワンコミックス |
| 原作小説 | ガガガ文庫『異世界リーマン、勇者パーティーに入る』 |
作品概要:勇者パーティーに「営業部」が配属されました
物語の舞台は、魔王が世界を脅かし、それを討伐するために勇者が旅立つという、王道中の王道ファンタジー世界です 。しかし、この物語が他と一線を画すのは、その勇者パーティーのメンバー構成にあります。
伝説の聖剣を抜き、神の使徒として選ばれた勇者アレク。彼を支えるため、王が選んだ仲間は、屈強な戦士、聡明な魔法使い、心優しき僧侶、そして…なぜかスーツに七三分けの謎の男、「営業のハヤシ」でした 。
剣も魔法も使えず、ステータスは一般人以下。そんな彼がなぜ勇者一行に加えられたのか?「エイギョウって何だ!?」と困惑するパーティーメンバーを前に、彼は現代日本のビジネススキルを駆使して、誰も予想しなかった形で「なくてはならない存在」へと駆け上がっていきます。これは、笑いと涙、そして「営業のハヤシ」ありの、まったく新しい英雄譚なのです 。
あらすじ:伝説のパーティー、最後の仲間は「営業のハヤシ」!?
魔王討伐という大いなる使命を帯び、王城から旅立とうとする勇者アレク。彼の前には、王が直々に選んだ頼もしき仲間たちが集結していました。パーティーの盾となる屈強な「戦士ロック」、絶大な火力で敵を殲滅する「魔法使いレオン」、そして傷ついた仲間を癒す慈悲深き「僧侶シャーリー」 。完璧な布陣に、アレクは魔王討伐の成功を確信します。
しかし、王は告げます。「そして、最後が営業のハヤシじゃ」と 。
そこにいたのは、場違いにもほどがある黒いスーツ姿の男。困惑するアレクたちを前に、その男――ハヤシは深々と頭を下げ、完璧な営業スマイルでこう言いました。
「わたくしこういうものでして。いつもお世話になっております~」
すかさずアレクが全力でツッコミを入れます。
「お世話してない! 初対面!!」
この瞬間、彼らの奇妙で最高に面白い旅が幕を開けました。戦闘力ゼロのハヤシをどうしたものかと一行が頭を悩ませる中、彼は早速その真価を発揮します。お祭りでごった返す村で、どの宿も満室という絶望的な状況の中、ハヤシは巧みな交渉術と手土産(接待)を駆使して、あっさりと一行の宿を確保してしまうのです 。
彼の武器は、剣でも魔法でもありません。卓越したコミュニケーション能力、情報収集力、段取りの良さ、そして危機管理能力。ブラック企業で培われた彼の「営業スキル」は、ファンタジー世界の冒険において、後方支援と兵站(へいたん)という形で、最強の「チートスキル」として機能していくのでした 。
本作の魅力と特徴:ただの異世界漫画じゃない3つの理由
『異世界リーマン』が多くの読者を惹きつける理由は、そのユニークな設定だけに留まりません。ここでは、本作を傑作たらしめている3つの核心的な魅力を深掘りしていきます。
斬新な設定:「営業スキル」で無双する非戦闘員主人公
多くの異世界作品が物理的な強さや魔法の才能で「無双」するのに対し、本作の主人公ハヤシは、徹底して「ビジネススキル」で問題を解決します 。このアプローチが、既存のジャンルの枠組みを打ち破る本作最大の魅力です。
例えば、気難しく誰もが手を焼く妖精族のお局様を、巧みなヒアリングと提案力で説得し、協力を取り付ける場面 。あるいは、壮大な魔王討伐の旅を一つの「プロジェクト」と捉え、リスク管理や工程をまとめた完璧なフローチャートを作成し、王にプレゼンする場面 。彼の活躍は、徹頭徹尾サラリーマンのそれであり、読者(特に社会人)が現実世界で日々駆使しているスキルそのものです。
これは、ファンタジーという非日常の世界に「日常のスキル」を持ち込むことで生まれる化学反応であり、ジャンルの固定観念に対する批評的な視点すら感じさせます。同時に、読者は自らの経験や能力がファンタジー世界でも通用するという代理満足感を得ることができます。つまり、『異世界リーマン』は、現実世界で奮闘するすべての人々のスキルを肯定し、勇気づける「エンパワーメント(力づけ)」の物語でもあるのです。
秀逸なコメディ:異世界と現代日本の価値観のギャップが生む笑い
本作の笑いの源泉は、ハヤシが持ち込む「サラリーマンの常識」と、アレクたち「ファンタジー世界の住人の常識」との間に生じる、絶妙な価値観のギャップにあります 。ハヤシが当たり前のように「進捗報告のため、日報を王様に送ります」と言えば、勇者アレクは「ニッポウ…? それは何の呪文書だ!?」と本気で困惑します。
この掛け合いが秀逸なコメディとして成立している背景には、物語が主に勇者アレクの視点で描かれているという巧みな構造があります 。アレクはファンタジー世界における常識人であり、読者の視点を代弁する完璧な「ツッコミ役」です。読者はアレクに感情移入し、彼と共にハヤシの常軌を逸した(しかしハヤシにとってはごく普通の)サラリーマン的言動に驚き、ツッコミを入れることで、物語への没入感を深めていきます。この計算されたコメディ構造が、本作のテンポの良い笑いを生み出しているのです 。
心温まる人間ドラマ:ブラック企業戦士を癒す優しい勇者一行
コミカルな展開の裏で、ハヤシが元いた世界の労働環境がいかに過酷であったかが、彼の口から断片的に語られます。不眠不休は当たり前、ストレスで食事の味がしない、休日もアラームが鳴ると出社してしまう――笑えるようで笑えない、彼の壮絶な過去が明らかになるにつれ、物語は深みを増していきます 。
ここで極めて重要なのは、勇者一行の反応です。彼らはハヤシの超人的な働きぶりを「すごい」とただ感心するのではなく、「その働き方はおかしい」「前の職場は異常だ」「この世界で君は幸せになるべきだ」と、心から彼の身を案じ、労わろうとします 。
この「ブラック企業」という背景設定は、単なる笑いのネタに留まりません。第一に、彼の異常なまでのタフネスや、後述する魔族の特殊攻撃が効かないといった体質に、悲しいけれど強力な説得力を与えるプロット上のギミックとして機能します。第二に、彼の悲惨な過去が、勇者一行の優しさや誠実さを引き出す触媒となり、彼らのキャラクター性を深く掘り下げます。そして第三に、現代社会が抱える「過重労働」という問題に光を当てることで、多くの社会人読者の共感を呼び、物語に強いテーマ性と風刺的なメッセージを与えているのです。
見どころ、名場面、名言
本作には、一度読んだら忘れられないインパクト絶大なシーンやセリフが満載です。ここでは、特に象徴的なものをいくつかご紹介します。
名場面①:伝説の初対面
あらすじでも触れた、ハヤシと勇者アレクの出会いのシーンは、本作のすべてが凝縮された名場面です。「いつもお世話になっております~」「お世話してない!初対面!!」という一連のやり取り 。この数ページの応酬だけで、うさんくさくも有能なハヤシのキャラクター、常識人でツッコミ役のアレクという関係性、そして作品全体のコメディの方向性が見事に提示されています。物語の「ツカミ」として、これ以上ないほど完璧な導入部と言えるでしょう。
名場面②:VS魔王四天王イライザ(淫魔)
旅の途中で一行の前に現れる、魔王四天王の一人であるサキュバスのイライザ。彼女が放つ強力な「魅了」の魔力に、勇者一行の男性陣は次々と骨抜きにされてしまいます。しかし、なぜかハヤシにだけは、その魔力が全く効きません 。その理由は「ブラックな職場で心身ともに疲弊しきり、精力も魔力もすっからかんになっているから」 。自らの不幸な体質が、結果的に最強の防御スキルとなるという、本作ならではの皮肉に満ちた展開は、爆笑必至の名場面です。
名言:「では本日は魔王討伐プロジェクトのスケジュール感をご説明いたします」
王様との定期連絡の際、ハヤシがおもむろに取り出した資料と共に放つ一言です 。ファンタジー世界の存亡をかけた壮大な冒険を、完全にビジネスの「プロジェクト」としてマネジメントしようとする彼の思考回路を、これ以上なく的確に表現した名言です。このセリフを聞いた時の、勇者アレクや王様の呆気にとられた表情も必見です。
主要キャラクターの簡単な紹介
個性豊かな勇者一行が、この物語をさらに面白くしています。
- ハヤシ 本作の主人公。黒いスーツに七三分けがトレードマークの営業マン。戦闘能力は皆無で、ステータスは病人以下と診断されるほど 。しかし、ブラック企業で極限まで鍛え上げられた事務処理能力、交渉術、危機管理能力で、パーティーを後方から完璧にサポートします。
- アレク 伝説の聖剣に選ばれた、真面目で正義感の強い勇者。仲間思いの常識人ですが、それゆえに異質な存在であるハヤシの言動に常に振り回され、パーティー内でのツッコミ役を一手に引き受けています 。
- ロック 寡黙ながらも頼りになる大柄な戦士。パーティーの最前線に立ち、その屈強な肉体で仲間たちを守る物理的な壁となります 。
- レオン 強力な攻撃魔法を自在に操る聡明な魔法使い。パーティーの主砲として、多くの敵を薙ぎ払う火力担当です 。
- シャーリー 傷ついた仲間を癒す回復魔法の使い手である、心優しき僧侶。パーティーの生命線を握る、なくてはならない存在です 。
『異世界リーマン』に関するQ&A
最後に、本作に関してよくある質問とその答えをまとめました。
Q1: アニメ化はされていますか? A: 現在、『異世界リーマン』のアニメ化に関する公式な情報はありません。インターネット上では『サラリーマンが異世界に行ったら四天王になった話』など、テーマが類似した他の作品のアニメ化情報が見られますが、これらは全く別の作品ですのでご注意ください 。
Q2: 原作はありますか? A: はい、あります。本作は、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されている岡崎マサムネ先生のWeb小説が原作です 。その後、小学館のガガガ文庫から『異世界リーマン、勇者パーティーに入る』というタイトルで書籍版も刊行されています 。漫画で興味を持った方は、より詳細な心理描写やエピソードが楽しめる原作小説もおすすめです。
Q3: 他の異世界サラリーマン作品との違いは何ですか? A: 大きな違いは2点あります。第一に、多くの作品では主人公が最終的に何らかの戦闘能力やチートスキルを得るのに対し、本作のハヤシは徹頭徹尾、戦闘能力を持たない非戦闘員であり、純粋なビジネススキルだけで活躍し続けます 。第二に、物語がサラリーマン本人ではなく、彼を受け入れる異世界側の勇者アレクの視点を中心に描かれる点です 。これにより、異質な存在である「サラリーマン」を客観的に観察する独特の面白さが生まれています。
Q4: 無料で試し読みはできますか? A: はい、可能です。小学館の公式漫画アプリ「マンガワン」をはじめ、コミックシーモア、BOOK☆WALKER、めちゃコミックなど、多くの電子書籍ストアで第1話などの無料試し読みが提供されています 。まずは気軽に試し読みをして、作品の雰囲気を掴んでみることを強くおすすめします。
さいごに:明日の仕事を頑張るための、最高のエンタメ
『異世界リーマン』は、単なる目新しい設定の異世界コメディではありません。そこには、斬新なアイデア、計算され尽くしたキャラクターの掛け合い、そして何よりも、ストレス社会で戦う現代のすべての人々への温かいエールが込められています。
仕事で疲れた夜にこの漫画を読めば、ハヤシの常識外れな奮闘に腹を抱えて笑い、彼を支える勇者たちの優しさに心が温まり、「明日ももう少しだけ頑張ってみよう」と、きっと前向きな気持ちになれるはずです。
もしあなたが、ありきたりのファンタジーに飽き、心から笑えて少しだけ元気が出る物語を探しているのなら、これ以上の作品はありません。
まずは伝説の始まりとなる、あの最高に面白い名刺交換(初対面)シーンを、ぜひご自身の目で確かめてみてください。


